
「ラスボス少女アカリ〜ワタシより強いやつに会いに現代に行く〜」連載中の酒ヶ峰ある先生にインタビュー!
公開日 2025/09/10
世界を中心に広がり続ける"タテマンガ"。興味はあるけれど、タテマンガの描き方が分からない。そんな人のために、第一線で活躍する人気タテマンガ作家さんにインタビューをして、"生きている知識"を皆さんにお届けします!

酒ヶ峰ある
2024年よりジャンプTOONにて大人気連載中の「ラスボス少女アカリ〜ワタシより強いやつに会いに現代に行く〜」のネーム・線画・カラーリングを担当。本作は「タテ読みマンガアワード2024」にて国内作品部門第5位を獲得。
とある異世界でラストダンジョンに君臨する魔王アヴァロン。彼は誰にも倒してもらえず、一万年もの長きに渡り、己の存在意義を満たせずにいた。退屈と諦念の果てに、自分を倒してくれる者との出会いを求めて別の異世界へと転生したアヴァロンを待っていたのは、学校でいじめられ死んでしまった女子高生・アカリの体だった。 十数年前に突如開かれたゲートによって、ダンジョンからモンスターの侵攻を受ける地球で、「ハンター」を養成する学校に通っていたアカリは、万年最低のランクEであることを理由にいじめられていた。 己よりも強い者に出会うべく、アカリとして学校に通うことにするアヴァロンだったが、周囲は中身が最強のラスボスに代わっていることに気づかず、いじめようとしてきて…!?
──酒ヶ峰先生はネーム・線画・カラーリング部分を担当されていますが、作品完成に至るまでの具体的な流れを教えてください。実際のやり方や使用しているソフト・アプリなども教えていただけますと幸いです。

PC:Surface Pro6 メモリ8GB 液晶タブレット:Wacom Cintiq Pro 16 ソフト:CLIP STUDIO EXです。 ※描くにあたって、自分なりにレイヤーテンプレートをカスタムしてます。あと正直パソコンのスペックが8GBだとクリスタは動作が重いのでギリギリです。16GBにそろそろ買い替えます。

流れとしては、 1【ネームのネーム】…脚本を一通り読み気持ちをのせてから、ソフトにてコマとフキダシのアタリを、配置を考えつつ最後まで書きます。1ページの大きさが1600×20000pxの350dpiで、大体1話10ページ前後になります。(1ページあたり5~8コマくらい、スマホで見たときに大体1コマずつ表示されると綺麗かなーと) 2【ネーム】…アタリを参考に大体、コマ→セリフ→絵→描き文字→フキダシ、の順でそれぞれ別レイヤーに描きます。(私の場合コマ、フキダシはほぼそのまま原稿に使います) 3【ネームチェック】…pdfで出力し担当編集さんに送り、岸馬さんからもOKをもらいます。 4【原稿】…ネームと脚本を確認しつつ描きます 5【原稿のチェック】…3と同じです。 6【原稿納品】…ジャンプTOONの納品形式にまとめて提出。レイヤーを結合したりpsdデータで書き出したり、ファイル名を納品用のナンバリングに変えるなど地味に手間ですが最終仕上げって感じで好きな作業です。
──週刊連載をされていく中での、1週間の過ごし方、時間の使い方を具体的に教えてください。ネーム作業・線画作業・カラーリング作業にはそれぞれ何日ほどかかるのでしょうか?また、息抜きについても教えていただけますと幸いです。

これは理想的にできた週のスケジュールですが、 1日目:ネーム 2日目:キャラの下描き 3日目:キャラのペン入れ&ベース塗り、描き文字 4日目:背景(ここから2日ほど、並行してアシスタントさんにキャラの色ベタ塗り、描き文字の色グラデ、効果線など諸々をリモートで通話しつつやってもらいます。) 5日目:キャラクターの陰影、エフェクト 6、7日目:お休みなので何かの手続き、生活用品を買う、家の掃除、映画を観る、散歩、ゲーム、なにか創作、家族や友人に会う、ノートに脳内の幻聴みたいなのを吐き出しきる、なるべく何もしない、など。 ※毎日朝8時半くらいに起きて夜12時くらいに寝るまでに、終わらせたいなーという感じです。すみません、実際はじわーっと2、3日遅れるのが常です。最近は4週間で3話描くスケジュールにしていただいています。アカリの最初のころ毎週掲載だったのは、アプリリリースまでめちゃ描きためてたからなんです。一話に3週間とかかけた話とかもちょこちょこ…。 あと息抜きとしては大掃除か映画を観に行くのが一番落ち着ける感じがします。
──酒ヶ峰先生は元々ヨコマンガを描かれていたと伺いました。タテマンガを描き始めたきっかけをおしえてください。

タテマンガをはじめたのはアカリのお話をいただいたのがきっかけで、2022年の5月ごろからなので3年近くになります。キャラの横並びの絵とかが描きにくい縦長画面にいまだに苦戦してますが、無理やり空間を歪ませた結果面白い画が作れる時とかもあって勉強になります。背景や建物を色で埋められるのも、モノクロの時より多少描きやすいかもです。色を考えるのは正直自信はないのですがアニメの画面を作ってる風な気分で楽しいです。
──タテマンガはヨコマンガとは違ったコマ割りや見せ方になるかと思います。タテマンガのコマ割りで感じたことや、ネーム・原稿作業時に意識していることはありますか?

フキダシの位置がいつも難しいなと感じます。なるべく読者の視点が左右に大きく動かずまっすぐ流れ落ちるように配置したい。あと、文字や大事なキャラの顔を端に描くと端末によっては見切れてしまうらしいので真ん中目に配置します。 フキダシ配置に慣れると、めくりの効果を考えなくていいぶんヨコマンガよりもざくざくコマ割りしやすい気がします。 俯瞰とか遠景コマは、物語はだれがどこで何をしているかまず気になるので、毎話始まりの1~2コマ目とかに描くことが多いですね。でも必要なのかは場合によるのかな… あと、タテマンガは縦長いものを描くと映えるようなので大きなコマではわざと体や足などを若干長めに描くこともあります。コマ自体も、決め絵じゃなくても縦長の方がかっこいいかもです。 あとはヨコマンガでもそうですが、魅せゴマや決めゴマの前の数個のコマは小さめに描いて、解放の前の溜めみたいなのを作りたいと思っています。
──「ラスボス少女アカリ」を読んでいると、ストレスなくスムーズに読み進められるように作られていると感じます。読みやすさの上で、意識されていることはありますか?

背景の端の方とか目立たなくていい場所は、脈絡なく謎の影や光線で隠して目がいかないようにしてたりします。 それと画面には右から左へと流れる大きな力のようなものがあるらしく、「劣勢・がんばってる」キャラクターは向かって右を向いていると、大きな力に立ち向かってる感が自然に出て読みやすいようです。逆に左を向いていると「絶対的な力・脅威的な存在」感が出るみたいなのでうっすら意識してます。(最近知りました)

──「ラスボス少女アカリ」では、目に留まる一枚絵の迫力が印象的です。決め絵のシーンで意識していることや、カラーリング時の工夫などを教えてください。

最初の方に担当編集さんから、1話1話アカリの新しい表情を見せていきたいという方針を聞いてましたので、そこを決めゴマとして一番丁寧に描く感じで進めました。 バトルシーンのインパクト時には何らかの破片や煙をたくさん飛ばすと勢いが感じられるかなーとか、真剣なシーンにはキャラを逆光にして周りに塵を飛ばすと時間が止まったような雰囲気が出ていいかなーと感じます。

──週刊連載を進めていく上で、毎週1話ごと作る際に意識していることはなんですか?

前述のとおり1話につき1つ決めゴマを気合い入れて描くこと、あとは、プレッシャーを感じずに楽に描き進めるというか、ぬるっと作業を始めてぬるっと終わるくらいのスタンスで描くこと、そしてたとえ締め切りが過ぎてしまっても部屋の掃除や入浴や睡眠を優先することを意識してますかね…こんなこと書いていいんでしょうか。
──タテマンガを描いてみての感想や、良い意味でも悪い意味でもギャップなどありましたら教えてください。

最初、プロの世界に足を踏み入れるのにすごく力不足だと考え、どうしようもなく不安で歯ぎしりしながら描いていたのですが(笑)、原作者さんも担当編集さんも優しいし、あれ?こんなにミスしてばっかりの自分に鞭打つ必要、なかったのか…自分のペースにもっと寄り添ってもいいんだ…?とゆっくりわかってきて拍子抜けというか、少し安心しましたね。アカリもたくさん読んでもらえて、原稿料も最初からしっかりいただけて、考えていたより平穏に生きられていることにありがたくも驚いています。
──最後に、タテマンガの連載を目指す新人作家の皆さんにメッセージをお願いします!

YouTubeなどでタテマンガの描き方を一度気軽に見てみてください。なんか描けそうな気がしてきます。壁にぶつかっても、ぬるっとトライアル&エラーし続けてみてください。がんばってください~!
──酒ヶ峰先生、インタビューにご協力いただきありがとうございました!
原作担当 岸馬きらく先生のインタビューはこちら